レポート


11月21日(日)/水窪町:訪問〜飯田市

 水窪町〜長野県南信濃村〜上村〜喬木村〜飯田市(泊) 
 <約66q/登坂標高差約1650m>


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 水窪の朝は川霧で白かった。川霧の出る日は晴れである。よし、これで今日は行けるぞと気合が入る。なんせ登りの標高差合計が約1600mもあるのだ。
 出発前に大切な用事がある。水窪町役場に立寄って、天野町長に相良町からお預りした塩をお届けするのである。休日にも関わらず、天野町長は笑顔でわれわれを労ってくださった。勇気100倍である。

水窪泊は中村館。朝は珍しそうにサイクリストを見送って頂く。
水窪は朝から霧が立ち込めていた。
天野水窪町長に塩をお届けする。
水窪町役場を9時に出発。
静岡から二日目のみ参加したいと駆けつけてくれた長坂さん。
同じく静岡から二日目、三日目と参加する田代さんも合流。

 水窪を出ると、いきなり登り坂の連続だ。ぐいぐい登ってゆく感じである。有名な西浦田楽の行われる所能の傍らを過ぎ、三遠南信自動車道の入口に辿りついたのは10時少し過ぎ。草木トンネルは自動車専用道なので、自転車で走ることができない。ここは手早くサポートカーに自転車を積み込んで、ワープなのだ。草木トンネルを抜けてすぐにまた自転車にまたがる。ここからがいよいよ厳しい登り。健脚組はぐいぐい登るが、私をはじめランドナー系はじわじわゆっくり進む。時速6qぐらいだ。

草木トンネルは自転車・歩行者が通行できない。車に自転車を積み込む。
突如現われる自動車専用道の草木トンネル。
兵越峠まであと少し。
兵越峠で浜北市の河合さんが「新聞見たよ。がんばれ!」と飴のプレゼント。
このた集落は素敵な風景ばかりだった。
このた集落で見付けた美しい柿の木。

 ヒョー越峠全員到着は11時過ぎ。コーヒーを沸かして、体が冷えないうちに慎重にダウンヒルにかかる。舗装だが部分的にけっこう荒れたりもしている。途中で普通のルートから外れ、此田という集落の中を狭いヘアピンの道で通り抜ける。
 八重河内でお昼だ。和田の町も現在は裏道の塩の道などを通って、またまた遠山川沿いにゆるやかに登り始める。木沢で小学校に立寄ってみたのだが、ここが実に素晴らしかった。いろんな展示があって、それも実に感慨深かったのだが、昔のままの教室の風情が残されている一室があり、もうなんとも言えず懐かしかったのだ。木沢のていしゃばというところにある森林鉄道のディーゼル機関車と客車もなかなかのものだった。

八重河内まで下り坂で、大畑さんのブレーキシューが磨り減ってしまった。
八重河内で出会った浜松市の竹内さん。ここでも新聞記事の話題で盛り上がる。
ひなびた和田の町並みを行く。
和田で購入した遠山名物玄米パン。
南信濃村の廃校となった木沢小学校に立寄る。
木沢小学校には往時のままの教室風景があった。

 木沢から三遠南信自動車道矢筈トンネルの入口までが、いよいよの正念場。それほど急傾斜ではないけれど、すでにヒョー越峠でかなり足を使っているので効く。トンネル手前の数qがなかなかタフであったのだ。矢筈トンネルも自動車専用だから、草木トンネルと同様に、自転車を車に積んでワープするしかない。南側に赤石トンネルを通るルートもあるようなのだが、近年ほとんど車は使わないようで、最近熊の出没情報もあり、冬季通行止め直前で凍結も予想されたし、何よりまた標高1000m以上まで登らなければならないため、安全と時間を考えてパス。

程野トンネル手前でまた自転車と参加者を車に載せる。
程野トンネル手前で飯田市から迎えに来てくれた田中さんの車にも分乗。
飯田市のりんご畑を行く。
飯田市街地まではあと少し。
伊那八幡駅近くの踏切。電車を久しぶりに見た。
飯田駅に到着して、ホッと一息。
長坂さんは自転車と共に飯田線で水窪まで帰る。
 

 矢筈トンネルの手前からもう日陰。かなり寒くなり、トンネルを抜けたら気温はびっくりするほど低い。充分着込んでゆっくりと長い下りに入る。そのまま天竜川筋に下りるのではなく、氏乗から富田を通ったのがルートのポイント。対岸の河岸段丘はるかに夕暮れ間近の飯田が望めるのだ。かたわらの尾根では蒼い秋の空に木々の影が映り、伊那谷ファンの私はもう感動である。
 天竜川を渡り、秋葉街道の飯田川起点でもある伊那八幡駅付近を通って、最後にまた河岸段丘上の飯田駅まで標高差100mほど登る。今日また静岡に帰る仲間を見送りつつ、ともかく安全に飯田まで来ることができたことに感謝である。飯田名物のおたぐりや馬刺しも味わいながら、夕食は自転車旅談義でおおいに盛り上がったのであった。


メンバーからひとこと

石田聖典さん(静岡県小笠町)
ヒョー越峠から下る途中の集落、此田では、軒先に大根や柿が干してある昔ながらの田舎の風景に、懐かしさを感じました。私は飯田市出身なのですが、以前のこの辺りは道もなく、秘境といわれていたところですので、今も残るこんな風景に出会えてよかったです。また、昼食をとった八重河内では、川にアマゴの姿を見つけ、その後も川の中を覗きながら走りました。こんなことができるのも自転車ならでは、ですよね。

鈴木孝弘さん(静岡県森町)
ヒョー越から下る途中、谷間の反対側に見えた崩れかけた斜面が凄かった。集落の向こうに深い谷間があり、中央構造線をまさに目の当たりにしているという実感。車でも何回か通っているけれど、自転車で走るともっといろんなものが見えてくる。僕が子供の頃の時代の町並みが残っていて、時が止まっているような感じでした。

大畑克彦さん(静岡県掛川市)
自転車で標高1千mを越える山を登るのは、これが3回目。中でも今日のヒョー越峠が一番の高さでした。やったぁ!という満足感いっぱいで下りに入ったところ、その急勾配にブレーキをかけっ放しでブレーキシューが磨り減ってしまい、怖い思いをしました。事前の整備は大事ですよ、やっぱり。飯田に入ると車も多く、路上駐車をすり抜けて走りましたが、車、自転車、歩行者の住み分けの必要性を実感しました。

篠宮章浩さん(東京都杉並区)
やはり景観ベストワンはヒョー越峠からの下りですね。深い谷に民家が貼りついているところ。遠山郷の木沢の、木造の小学校も秀逸。天竜川に向かって降りてゆく手前の、富田の古い町並みも面白かった。ああいうところにぽつねんと離れて見事な集落がある景観は目にしたことがなかったですね。

池田年広さん(東京都八王子市)
ヒョー越峠からの下り、此田の集落が圧巻。とうがらしを干している地元の方と写真を撮ってもらいました。山の暮らしの大変さがしのばれます。ヘアピンの田舎道の雰囲気がたまりませんでした。

花島竜治さん(神奈川県横浜市)
和田の町にあったリニアモーターカーの看板が、古い町並みとのミスマッチで最高。木沢の小学校にあった、カパっと蓋を開ける昔の机や、白黒の子供雑誌に感動。同じ木沢のていしゃばにあった、酒井のDLも素晴らしい。景観のベストワンは、富田から下る途中、遠くに見えた飯田市街地の夕景ですね。

山崎卓巳さん(静岡県掛川市)
南信濃村で廃校になった木沢小学校に立ち寄りました。地元の人たちが木造の旧校舎を保存しようと、校舎を様々に活用しているようです。今日は写真展が行われていました。40年ほど前の人々の暮らしや子どもたちの写真が印象に残りました。校舎のたたずまいや地元の人々の思いにジーンとしました。

田代正志さん(静岡県静岡市)
ヒョー越峠からの下り、わき道にそれて、斜面にへばりついた此田の集落をぐにゃぐにゃ曲がりながら下ったのが強烈な印象でした。上村で立寄った神社には、霜月祭りに使うんでしょうか、かまどがあって驚きましたね。手前の和田の町でもバスターミナルのそばに思わず寄り道してみたくなるお寺の石段が見えました。

長坂潔曉さん(静岡県静岡市)から感想が届きました
かねてから一度は訪れてみたいと思っていたヒョー越峠を強行日帰りで走ることができたこと自体たいへん満足感があります。
峠そのものは想像していたとおりの雰囲気だったのでそれほど感じることはなかったものの越えた瞬間から始まる長野県の空気感に酔ってしまった。
空中集落の青空に柿の木一本。
さらに下れば、昭和30年代で時間が止まっているかのような雰囲気。
懐かしい心持ちを感じる一方でなんだかやけに寂しく感じるのは何故だろう?
もしここで生まれてここで生活していたらどんな人生だろうかと?
自分の日々の生活とオーバーラップさせながら山の集落を過ぎ街道筋の商店街を通り抜ける。
そんなちょっとブルーな気分から開放してくれたのが飯田市街に入る途中の郊外の様子である。
棚田とナマコ壁のある立派な農家がやけに印象に残る。
ちょうど夕日の美しい時間帯だったせいもあるのだろうか。
美しかった。
美しいということに加えて豊かさへの貪欲な緊張感のようなものを感じた。
豊かなことは豊かでないことよりやっぱり良い。

豊かさへの緊張感を忘れかけていた自分には良い旅だったように思う。


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