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高遠の朝は清冽な空気に満ちていた。草や地面に一面の霜が降りている。「ロード・オブ・ザ・ソルト」の出発点、温暖な掛川の季節感覚ではもうこちらは冬だ。参加者全員、適度に着込んでさあスタート。高遠の味わい深い町並みを抜け、国道152号で一路杖突峠を目指す。ゆるやかな登り坂が続く。
最終日の出発。念入りに自転車の調整をする。 | お世話になった高遠町の「ホテル仁科」。前夜に合流した小松さんご主人と奥様に見送っていただく。 | ||
高遠町は冷え込んだ。朝は真っ白に霜がおりた。 | 白い息をはいて北に向かって走る。 | ||
ルート上のあちこちにある道祖神。自然と手を合わせたくなる。 | 「道祖神」の文字の大きさにビックリ! |
10qほど北上したあたりだろうか、荒町というところの公民館の前で休憩をとっていたら、昨晩掛川から新幹線と飯線で高遠の宿に駆けつけ、サポートチームに加わった、掛川市助役の小松氏が、目ざとく集落の山際にある神社を見つけ出した。何人かで参拝してみると、国道からその神社の前を経由するわき道が、実は昔の街道であることが判明した。国道に復帰する道すがら、「右 山道 左 江戸道」と刻まれた石碑を発見する。なるほど、ここでは塩の道はまた、中山道経由で江戸に通じる道でもあったらしい。
立ち並ぶ民家は、木造+漆喰の組み合わせが美しい。 | 貴布禰神社に立寄る。 | ||
貴布禰神社の由来を語る地元の方と。 | 杖突峠の手前はゆるやかな登り坂が続く。 | ||
杖突峠で高度計が示した数字は1176m。 | NPO代表の井村さんと一日目に参加した鳥居さんが峠で合流。 |
杖突峠に向かって、道はさらに高度をあげてゆく。傍らの里山の落葉樹はほとんどが葉を落とし、すでに冬の装い。峠の数qほど手前から、傾斜がきつくなる。昨日よりさらに蒼い蒼い空が、木々と山のシルエットの上に広がっている。
その空が次第に低くなり、ピークが近いことを知る。ロード系健脚隊のかなり後を、ランドナーゆっくり隊が行く。実際の峠でいったん全員合流したあと、少し下の展望スペースに移動する。無料展望台に出てみたら、眩暈がしそうなほど凄い風景が展開している。北アルプスから八ヶ岳まで一望し、眼下には諏訪湖。まるで空を飛んでいるかのような視界だ。
どうやら茅野方面への下りは一部凍結があるらしい、との情報があり、目安50mの車間を空け、一人ずつごく慎重にゆっくりと下ってゆく。幸い今日は朝方の凍結も溶けていて、走るところを選べば自転車を降りなければならないほどの状態ではなかったが、きっとすぐにもっと厳しい路面となるだろう。標高1200を超える峠からの下りは、ゆっくり下ってもすぐに体が冷える。寒くて寒くて仕方がなかった。
峠で食べた高遠まん頭は、餡がいっぱい詰まっていて美味。 | 諏訪地域の、まさに一大パノラマ。 | ||
峠を越えてからは一気に茅野へ。 | |||
諏訪大社上社に到着。 | 諏訪湖に出て、湖畔のサイクリングロードへ。 |
御柱祭であまりに有名な諏訪大社上社前で昼食。大社参拝の際には、小松助役から正しい参拝の作法を教えていただいた。巨木の立ち並ぶ、凛とした雰囲気の神域だった。
それからまた県道を走り、諏訪湖の湖岸に出る。湖岸に沿う自転車歩行者道をのんびりと流す。やがて至ったのは、天竜川の流れ出す釜口水門。ここは一見の価値あり。北遠、下伊那、上伊那で、それぞれ天竜川の姿を見てきたが、今日はとうとうその始まりの場所にまで達した。みんな感慨深げである。
釜口水門。ここが天竜川の源となる。 | |||
岡谷市街地から塩尻峠へ走り出す。 | 交通量の多い国道20号を一列で登っていく。 | ||
諏訪湖を背に、塩尻峠まではあと少しだ。 | 峠でアミノバリューを補給する鳥居さんは、早朝掛川から駆けつけて参加。 |
最後のヒルクライムは、塩尻峠への登り。岡谷の市街を横切り、突き当たった国道20号を塩尻方面へ。途中から自歩道もなくなり、トラックも行き交う車道を進まねばならぬ難所だ。ブリーフィング通りに、みんな安全第一、各自のペースで峠を目指す。そして全員無事、標高約1000mの塩尻峠に到達し、今度は塩尻方面に下ってゆく。左折する柿坂という交差点まで来たら、後続が遅れているのに気付いた。パンクだ。しかし手早くチューブ交換を済ませてしまうのも、ベテランならではの技だ。
再び整った隊列で、充分車間をとり、塩尻駅を目指す。下るにつけ、むしろ気温が下がってくるような感じがある。明らかに諏訪側よりも寒い。空気感がまた違うのだ。いよいよ、旅のファイナルレグである。
塩尻駅観光案内所では、塩尻市役所の上條さんが私たちを待っていてくださった。相良町でお預かりした塩、掛川市から託されたお茶を、関係者全員が見守るなか、無事、上條さんにお渡しすることができた。参加者もサポーターも、つつがなく大役を果たした感慨ひとしおである。観光案内所でいただいた葡萄ジュースがたまらなくおいしかった。
峠を越えると日の色が赤みを帯びてきた。 | 全工程を通じての初パンクは、峠を下る最中に2台同時に発生。 | ||
塩尻駅に到着。最後の塩を塩尻市役所の上條さんにお渡しする。 | 駅には、なんとNPO事務局長の山下さんが待っていてくれた。全員で記念撮影。 | ||
ご用意いただいた塩尻特産のワインとぶどうジュースで乾杯! | ロード・オブ・ザ・ソルトは平出遺跡にて完結。 |
ゴール地点の平出遺跡までは、あと数q。旅の最後を飾る区間を、惜しみつつ、味わうように辿る。平出遺跡で、ちょうど日没だった。全員で記念写真を撮影し、遺跡博物館そばの駐車場に移動して、帰り支度である。東京からの輪行組3名は、ここでパッキング、塩尻駅までサポートカーで送ってゆく。みんなが安全に旅を終えることができたことに感謝せずにはいられない。約300q三泊四日という、旅の距離と時間を共有した私達は、塩の道という古の旅の道筋に、あるときは苦労し、あるときは感動し、そしてあるときはまた教えられ、かけがえのない経験をさせてもらったと思う。
誰が言うともなく、別れ際に、握手が交わされた。冷え込んできた空気のなかで、それは力強さと、ぬくもりに満ちた握手だった。私達は確かに、ひとつの旅を分かち合うことができたのだ。走った仲間だけではなく、支えてくれた仲間たち、笑顔で迎えてくださった方々と分かち合う旅を。塩の道は、消え去った過去の道ではなく、今も、人と人の魂を結ぶ道であることを、私達は自らの身体と、走ってきた距離と、重ねた時間を通して、知った。
メンバーからひとこと 池田年広さん(東京都八王子市) 花島竜治さん(神奈川県横浜市) 篠宮章浩さん(東京都杉並区) 増田多喜男さん(静岡県森町) 山崎卓己さん(静岡県掛川市) 鈴木孝弘さん(静岡県森町) 石田聖典さん(静岡県小笠町) 大畑克彦さん(静岡県掛川市) |